堺化学工業株式会社(以下、堺化学)は、2018年に創業100周年を迎えるにあたり、2016年6月に周年事業プロジェクトを発足させました。社長の考えは、「次の100年を担う若い世代に記念事業の内容を考えてもらいたい」というものでした。
過去に行った周年事業は事務局が中心となって運営したため、後になってみると資料はあるが、誰もその詳細について知らないという反省もありました。そこで「大きな節目となる100周年においては、社員全員が一体感を感じられ、記憶と記録に残る事業を」という目標を掲げました。加えて、「堺化学で働くことに誇りを持てるきっかけづくりにしたい」という想いもありました。そのようなことから、“社員全員が参加する周年事業”という方針をもって臨みました。
プロジェクト発足に先立ち、事務局は周年プロジェクトの企画を発案・討議し、実行に移す担当スタッフを各部署から選出することになりました。最初は社内通知で参加者を募りましたが、手を挙げたのはわずか数人でやはり指名する必要が生じたのです。日常業務もこなしながらプロジェクトに携わることは容易でないことはわかっていましたので、事務局の声掛けも遠慮がちになってしまい、それが最初のつまづきでした。「このプロジェクトに全力で向き合う」という人もいれば「本業のかたわらの“お手伝い”でよければ」という人もいて、スタッフ間で“温度差”が生じたのです。
また、大阪府堺市の本社、東京支店、福島県いわき市にある事業所・工場と、遠く離れた拠点同士でコミュニケーションを図るのも容易ではありません。そもそも担当スタッフ同士がまず一体感を感じ、積極的にプロジェクトに関わってもらうにはどうすればよいか、事務局は頭を抱えました。
業務内容、社歴、年齢、価値観もバラバラな担当スタッフの意見のとりまとめも困難でした。ミーティングで「やるべきこと」が明確になると、「そんなのは聞いていない」「業務が忙しくてできない」という意見も挙がりました。
そこで、より活発にプロジェクト活動を展開するために分科会をつくり、リーダーを任命しました。このリーダーの選出がポイントで、リーダーが中心となって各分科会でスタッフをまとめる体制をつくることで、当事者意識やスムーズな流れが徐々に生まれてきました。
また、周年プロジェクトの企画・運営に関しては、イベント会社の協力サポートを得ていました。事務局としては、最初は何もかも「おまかせ」の心づもりでいましたが、細やかな社内調整を外部の会社ができるはずもなく、どうしてもギクシャクする場面が出てきます。
結局は、事務局や各部署の担当スタッフが、100周年事業を会社の重要なミッションとしてとらえ、楽しみながら積極的に取り組む姿勢が必要でした。その意識が一人ひとりに芽生え始めると同時に、プロジェクトがうまく回り出しました。
一過性の打ち上げ花火のようなものではなく、全社員が参加意識を持てるプロジェクトにしたいという方針から、一つのイベントや制作物に集中しない、多彩なアプローチを取り入れました。実施した100周年プロジェクトの内容は以下の通りです。
●堺化学工業の100周年事業
・マスコットキャラクター「チータン」(社内公募で選出)
・社歌(社内公募で選出)
・漫画で知る『堺ノベーション物語』の製作
・100周年記念動画「White Magic! ―夢を叶える化学―」「意志の上に100年」
・ホームページに100周年記念サイトの開設
・社内掲出ポスター
・社内報に特集記事掲載と特別号の発行
・ストラックアウトチャレンジ
・社内イベント 100th Thanks Fes ~絆~
(2018年7月大阪市「インテックス大阪」および福島県郡山市「ビッグパレットふくしま」にて開催)・社外イベント~感謝のつどい
・100年史の製作
約10カ月にわたる企画立案と検討を経てプロジェクトの概要が決まり、2017年3月の経営会議での承認を得てから、さらに約1年をかけて各分科会で準備を行いました。社員に対しては、周年プロジェクトの取り組みを周知徹底させることに重点を置きました。社内の目にとまりやすい場所に告知ポスターを掲出。社長の全面協力を仰ぎ、社内報や社内ポスターにも積極的に登場いただいて、全社プロジェクトとしての意義を強くアピールしました。それでも社内から「宣伝が足りない」と指摘された時には、工場で毎月開催される安全合同朝礼の場や社内放送を利用して告知することもありました。
●マスコットキャラクター・社歌
これまで堺化学にはなかった、会社のシンボルとなるマスコットキャラクターや社歌をつくるというアイデアが、若手社員から挙がりました。いずれも社内公募で、優秀賞3チームが役員により選ばれました。さらに、そこから全社員による投票で、マスコットと社歌の最優秀賞が決定しました。応募数とモチベーションのアップのために、賞金を用意したこと、チーム単位での応募も可能としたことが奏功しました。
社歌は最優秀賞の詞に曲をつけてもらい、社内イベント時には皆で歌えるよう朝の始業時と昼休憩時に社内放送で流しました。現在も社内放送は続けられ、訪れた取引先の方も思わず口ずさむほど、親しまれています。マスコットキャラクター「チータン」をHP(ホームページ)や社内報で大々的に掲載。2019年の株主総会では、「チータンのファンだから来ました」という株主もいらっしゃいました。
●ストラックアウトチャレンジ
ストラックアウトチャレンジは、正方形の中に並ぶ9つのマス目に9つのチャレンジ目標を書き入れ、目標が達成されてマス目が埋まるとゴールという、ゲーム型イベントです。社員が楽しみながら目標に向けてチャレンジすることを奨励する目的で企画されました。チャレンジ目標は、次の9項目です。
① まちをキレイに! クリーンチャレンジ
② 増やせ未来のメシの種! 発明チャレンジ
③ 危険の芽を摘み取れ! KYチャレンジ
④ 重役もがんばれ! 役員チャレンジ
⑤ もっと素直になれ! サンクスチャレンジ
⑥ 新製品を売りまくれ! 種まきチャレンジ
⑦ 仕事をラクにしよう! カイゼンチャレンジ
⑧ 勉強しようぜ! 資格チャレンジ
⑨ 未来を語れ! 作文チャレンジ
まず先陣を切ったのは、④の役員によるチャレンジです。事務局が「役員が率先して挑戦する姿を見せてほしい」と強く要請し、社長をはじめとする参加可能な役員がマラソン大会に出場しました。のべ42.195km以上の走破を目標にチャレンジし、見事クリアしていただきました。⑤は、日頃の仕事でお世話になっている人に対して、サンクスカードに感謝の言葉を書いて渡そうというものです。文字にする「ありがとう」は予想以上にパワーを発揮したのか、やりとりされたカードは計6,000枚以上にのぼりました。⑨の作文チャレンジにも名作が続々と寄せられ、社員の熱い想いを役員が知る好機会となりました。全員の作文に対して役員が丁寧にコメントをつけて返しました。
ストラックアウトチャレンジの告知ポスターには、社長自らがピッチング姿で自らもチャレンジ宣言をしながら登場。社内に話題を振りまきました。ストラックアウトチャレンジの結果は、2018年7月の社内イベントで発表。大いに盛り上がり、パーフェクト達成とまではいきませんでしたが、全社員が賞金を獲得することができました。
●100年史
過去に発刊した70年史をベースに、近30年分の歴史を追加する形での制作となりました。社史編集プロジェクトメンバーによる定例会議を、月1回のペースで実施。時代が下るにつれ社の歴史を物語る写真資料が思いのほか少なく、文章を統一感をもって仕上げることに非常に苦労しましたが、そこを乗り越え、充実した内容の冊子ができあがりました。
●漫画で知る『堺ノベーション物語』の製作
化学素材というのは、わかりやすい形がないので、会社で働いている社員でさえも案外理解していないものです。そこで、社員が自社を理解し、自分の仕事に誇りをもってもらうことを目的として、堺化学の製品やイノベーションの原点を、わかりやすく解説するツールの制作を企画しました。とはいえ、ただ製品開発の歴史を追うだけだと、100年史と内容が重複します。そこで生まれたアイデアが、「創業者の田中銀次郎氏が現代にタイムスリップした設定で、製品のなりたちやそれらが暮らしにどう役立っているかを漫画で楽しく表現する」というものでした。「堺化学の製品の魅力が伝わりやすい」と社内外から大好評で、リクルート用にも活用されています。
●100周年記念動画・記念サイト
社内向けに「White Magic! ―夢を叶える化学―」、社外向けに「意志の上に100年」という2つの記念動画を制作。「White Magic!」は、鉛を使わないおしろいの原料となる酸化亜鉛の粉末をイメージした、白いサンドアートが描くストーリー。社内外から絶賛の声が相次ぎました。「意志の上に100年」は、製品の原料となる「鉱石」に世に貢献する強い「意志」をかけています。2つの動画は周年イベントで流され、記念サイトにも掲載されています。(2019年末まで公開予定)
●社内イベント 100th Thanks Fes ~絆~
「絆」をコンセプトに一体感を感じられるイベントを目指し、企画チームと運営チームにわかれて実施しました。企画チームは、催しの企画や進行などを担当。運営チームは招待者選定、案内状送付、当日の交通の手配などを担当しました。
招待者は社員とその家族、社内で働く協力会社の方、OB(OG)としました。全員参加を強制するかどうか、招待するOB(OG)はどういう選定基準を設けるか、高齢の方には付き添いの有無を尋ねる必要があるか、など多数の検討事項を絞り込んでいきました。会場に向かう交通費や駐車場代、バスチャーターなどについても、ルールづくりや個々に合わせた手配が大変でした。
当日は、社員、OB(OG)、家族、協力会社の垣根を超えて、みんなが一体となって笑顔で交流する様子が会場のあちこちで見られました。
以上のように、仕込みの期間も入れると、様々なタイミングで常に周年を意識する仕掛けが施されました。ストラックアウトチャレンジのような日常業務に関連するイベントを導入することで、単なるエンターテイメントに終わるのではなく、個々の意識向上や成長にもつながるプロジェクトとなりました。